ブルターニュ名物の“ウマイモノ”を思い浮かべてみると、どれもバターを使ったものが多いことに気付く。確かにお隣のノルマンディ地方も乳製品は有名だけど、そちらはむしろ、カマンベールやリヴァロ、ポン・レベックといったチーズの方が名産。バターはやはり、ブルターニュのお家芸だろう。
よく「醤油を使わずに和食は成り立たない」というが、それと同様に「バターを使わないフランス料理などありえない」とまでいわれる程だから、その消費量といったらない。確かに南仏ではオリーブ・オイルが一般的だから、北へ上るほど、バター率が高くなるといえそうである。
そんなフランスにおいて、バターは大きく2つの種類に分かれる。一つは“demi-sel(ドゥミ・セル)”と呼ばれる有塩バターで、普通に料理をする際に使われる、一般的なもの。そしてもう一つは“deux(ドゥー)”と呼ばれる、いわゆる無塩バター。こちらはお菓子などを作るときに使われるようである。
恐らく作る過程で、もしくは保存の関係で、バターには伝統的に塩を入れていたのであろう。それが技術の進歩や、お菓子への需要などから、無塩のものが作られるようになったと思われる。確かに無塩のものは、有塩のものより賞味期限が短いようだ。
しかし、バター天国のブルターニュでは、お菓子にも有塩バターを使ったものが多い。
周りを海に囲まれ、塩も特産とされているせいだろうか、ブルターニュの有塩バターは、濃さがあってクリーミーなところに、ミネラルの程よくきいた塩の味わいが、かなり絶妙である。それがまたお菓子の甘さと混ざり合うと、その塩味がまさにアクセントとなり、 味わいに奥行きを作り出してくれる。もう、思わず微笑んでしまうしかない。
そんなブルターニュの、バターを使った名産品たちを、ちょっと紹介してみよう。
○バターの味わい、いろいろ
まずは、バターそのものから。ノルマンディとの境界に当たるといわれるSaint Malo(サン・マロ)は、海と城壁に囲まれた町である。その城壁に囲まれた旧市街の中に、知る人ぞ知る、有名な乳製品の店がある。
もちろんチーズも扱っているのだが、ここのウリはなんといってもバター。パリをはじめ、いくつもの星付きレストランが御用達にしているらしいここのバターは、シンプルな“demi-sel(有塩)”や“deux(無塩)”はもちろんのこと、海藻やスパイスを混ぜ込んだものなど、バラエティに富んでいる。白身魚を、この海藻入りバターでムニエルにするというのも、どちらかの星付きの一皿だとか。スパイス入りのものも、様々な料理にアレンジできる。
店内のショーケースには、大きなバターの塊が! 「どうやって買うの?」と思っていると、お店の人は「何グラム? 250でいい?」なんてきいて訊いてきてくれる。言われるままに「はい !」というと、お店の人はおもむろに、その大きな塊から木ベラで手際よく取り分けたかと思うと、馴れたて手つきで2本の木ベラを使って、直方体のいわゆるスーパーに並ぶバターの形に整えていく。最後は紙で包んで出来上がり。この手際が、見ているだけでも面白い。(しかも、安い!)
単にパンにつけて食べてもいいが、このところ出始めた春の野菜たち、特に鞘から剥きたてのグリーンピースなどをさっと茹でて、このバターでシンプルにソテーしていただくのも、かなりウマい。塩など全く加えなくても、それだけで楽しい一品となり、食卓が華やぐ。
贅沢をする必要はないが、日常消費するものにちょっとこだわると、テーブルが全く別物になるというのも、フランスの楽しみ方の一つである。

○塩バターキャラメル(Caramel au beurre salé)の可能性
バターを使ったブルターニュの名産といってまず思いつくのは、この「塩バターキャラメル」だろう。様子は、いわゆる日本のキャラメルに似たものだが、味わいは全く違う。
まずバターがおいしい上に、それをカラメル化させて甘みをつけることで、しょっぱさと甘さとほろ苦さが、口の中いっぱいに広がる。しかも、それほど噛まずとも、自然とトロけてしまうような滑らかさ。まさに「やめられない、とまらない」といった、後を引く味なのである。

しかしもっと驚きなのは、このキャラメルに秘められた可能性である。今回めぐり合ったのは、まずは「アイスクリーム」。単なるヴァニラアイスに、この塩バターキャラメルが混ざっているだけのものなのだが、そもそもヴァニラアイス自体が、日本とは比べ物にならないほどおいしい上に、このキャラメルである。海風がちょっと肌寒い時期だったが、それでもこんなアイスクリームなら、いつでも楽しめてしまう。

他にも、クレープにとろけたキャラメルと生クリームをタップリかけた、それこそブルターニュのスペシャルな一品もあった。後ほど話すが、クレープもブルターニュの名物であり、かなり大きく見えても、ペロッと食べきってしまうので、後がちょっとこわいような気がしてしまうのだが…でも、これも至福のときである。

○そば粉のクレープ
日本では、クレープというと“お菓子”の部類に入るだろうが、フランスでは立派な食事となる。これもブルターニュの名物で、日本と違うところは、そば粉を使っているということだ。
やはり万国共通、寒いところでは“そば”が栽培され、人々の糧となってきた。ここブルターニュも寒冷地で、よって“そば”を上手に活かした食べ物が発展してきた。
今や、パリでもあちこちで見かける、この“そば粉のクレープ”。比較的、スローフード志向のフランスにあって、結構人気の高いファーストフードなのである。
一般的なのは、ベーコンやハムなどとチーズ、目玉焼きの組み合わせ。チーズのおかげで、結構お腹にたまる食事となる。
「でも、バターとのつながりは?」と、疑問に思われている方もあるだろうが、このクレープを焼くにも、やはりバターが大活躍。カリッとした焼き目をつけるには、どうしてもはずせないものとなっている。

○クイニイ・アマン
一時期日本でもブームを起こしたお菓子といえば、この「クイニイ・アマン」だろう。パイ生地を広げるのではなく、筒状にクルクル巻いてから輪切りにし、オーブンで焼いたこのお菓子は、まさにバターが欠かせない。
さくっとしながらもしっとりしたところもあり、何より表面の砂糖とバターの塩味が程よくマッチ。かなりカロリーの高そうなお菓子だが、すぐにペロッといけてしまう。これもこわい。
また、ブルターニュの名物お菓子としては、その名も「gateau de Bretagne(ブルターニュのお菓子)」という、中にプルーンなどのフルーツが入った、柔らかい焼き菓子もある。これにもバターは欠かせない。

このように、食事にお菓子にと、かなり大活躍しているバター。それはまさに、ブルターニュの食生活には、切っても切れない、重要な食文化の担い手なのでもあった。